
金属製品や精密部品において、メッキ処理は単なる見た目の装飾ではなく、「機械的特性の付与」という重要な役割を担っています。耐摩耗性、硬度、潤滑性、密着性、摺動性、耐衝撃性など、目的に応じたメッキ選定が、製品の寿命や機能性を大きく左右します。
本記事では、メッキや金属加工を行う現場担当者やエンジニア向けに、「機械的特性別」に適したメッキの種類を6つの視点から紹介します。
目次
① 【耐摩耗性】に優れたメッキ
硬質クロムメッキ

硬質クロムメッキは、摩耗に対する強さが求められる部品に最適なメッキです。航空機部品、油圧シリンダー、金型、ピストンロッドなどに多く使用されています。
主な特性
- 表面硬度Hv800〜1000以上
- 摩擦抵抗が低く、摩耗寿命を大幅に向上
- 過酷な環境下でも高い耐食性を維持
注意点
- メッキ厚が厚くなるとクラック(亀裂)構造が生じやすいため、用途に応じた膜厚設計が重要
② 【高硬度】が必要な場合
無電解ニッケルメッキ(高リンタイプ)

無電解ニッケルメッキは、化学的な反応によって均一にメッキされる処理法です。特に高リンタイプ(リン含有率10〜12%)は、硬度と耐食性に優れており、精密部品や医療機器にも使われます。
主な特性
- 熱処理前:Hv500前後 / 熱処理後:Hv1000前後
- 複雑形状の内部や細孔にも均一にメッキ可能
- 非磁性が必要な部品にも適用可
適用例
- センサー部品、半導体装置、硬質ディスク基板など
③ 【潤滑性・離型性】が求められる場合
PTFE共析ニッケルメッキ

PTFE共析ニッケルメッキは、ニッケルメッキにフッ素樹脂(PTFE)を共析させた機能性メッキです。潤滑性や離型性に優れており、グリスやオイルの使用が困難な環境に適しています。
主な特性
- 己潤滑性が高く、焼き付き防止に有効
- 表面の摩擦係数が極めて小さい
- 摺動部品や樹脂金型などへの離型性向上
適用例
- 成形金型、食品加工機械部品、非給油ベアリングなど
④ 【密着性・延性】が求められる場合
銅メッキ

銅メッキは、導電性やはんだ付け性だけでなく、密着性や延性にも優れています。下地メッキとしてもよく使用され、金属間の接合強度を高めます。
主な特性
- 柔らかく、曲げ加工や塑性変形に強い
- 上層メッキとの密着力が高く、剥離防止効果
- 加工後も導電性を損なわない
注意点
- 空気中で酸化しやすく、変色や腐食に注意が必要
⑤ 【摺動性・低摩擦性】に優れたメッキ
錫-ニッケル合金メッキ

錫-ニッケル合金メッキは、低摩擦性と耐摩耗性のバランスに優れたメッキ処理で、特に摺動部品や可動接点に向いています。
主な特性
- 表面がなめらかで摩擦抵抗が低い
- 電気接点部の摺動による磨耗を抑制
- 耐熱性も高く、車載電子部品にも対応可能
適用例
- スイッチ接点、摺動端子、車載コネクタなど
⑥ 【耐衝撃性・耐疲労性】が必要な場面
ニッケル-ボロンメッキ

ニッケル-ボロンメッキは、無電解ニッケルの中でも高硬度・高耐久の特性を持ち、耐衝撃・耐疲労性に強みを持ちます。
主な特性
- 高硬度(熱処理後:Hv1200程度)
- 疲労強度・剛性が高く、衝撃荷重に耐える
- 耐摩耗性と耐熱性も兼ね備える
適用例
- 精密金型部品、切削工具、航空機構造部材など
特性ごとにメッキを選定することの重要性
従来、メッキは「装飾」や「防錆」が主な目的とされていましたが、現在では機械的機能を与えることが主目的となるケースが増えています。
同じニッケルでも「無電解か電解か」「リン含有率の違い」「共析物質の有無」などによって、得られる特性は大きく異なります。設計段階で求められる性能(硬さ、摺動性、潤滑性など)を明確にし、それに適したメッキ処理を選定することが、部品寿命・性能・コストの最適化につながります。
まとめ
以下は、今回紹介した特性と代表的なメッキのまとめです。
| 耐摩耗性 | 硬質クロムメッキ |
|---|---|
| 高硬度 | 無電解ニッケルメッキ(高リン) |
| 潤滑性・離型性 | PTFE共析ニッケルメッキ |
| 密着性・延性 | 銅メッキ |
| 摺動性・低摩擦性 | 錫-ニッケル合金メッキ |
| 耐衝撃・耐疲労性 | ニッケル-ボロンメッキ |
それぞれの特性に応じた適切なメッキ選定と処理条件の最適化が、製造現場における信頼性と品質向上に直結します。製品設計・工程設計時には、メッキ業者との密な連携を図ることが重要です。