
自動車部品、精密機械、医療機器、金型などに広く使用される「クロムメッキ」。その美しい光沢と優れた耐食性・耐摩耗性により、製品の性能や寿命を大きく高める処理の一つです。
しかし、製造工程やメンテナンスの過程では、クロムメッキを意図的に剥がす=“剥離”が必要になるケースもあります。本記事では、クロムメッキ剥離の目的、主な剥離方法、そして作業上の注意点までを詳しく解説します。
目次
クロムメッキを剥離する目的とは?
通常は製品の表面保護や機能付与のために施されるクロムメッキですが、以下のような場面では、剥離作業が必要になることがあります。
1. 不良品の再処理
メッキ不良(厚みムラ、ピンホール、密着不良、焼けなど)が発生した場合、製品を再加工するために一度メッキを除去する必要があります。
2. 再メッキ対応
金型や治具などでは、摩耗や損傷により定期的な再メッキが必要です。その際、古いメッキを完全に剥がしてから再処理します。
3. 部品の再利用
高価なベース材(金属素地)を再利用したい場合、既存のクロムメッキを剥がして原材として再活用するケースもあります。
クロムメッキの剥離方法

クロムメッキの剥離にはいくつかの方法がありますが、対象素材(素地)を傷めないことが最大のポイントです。以下に代表的な方法を紹介します。
1. 電解剥離法(逆電解法) – 最も一般的で安全性が高い
クロムメッキを電気化学的に溶解する方法で、最も多く採用されています。
- 原理:クロムメッキを陽極として処理液中に浸し、電流を流すことでメッキ層を電解溶解させる。
- 処理液:硫酸や苛性ソーダ(NaOH)などを使用
- 特徴:素地を傷めずにメッキのみを除去可能・均一で確実な剥離が可能・電源設備と専用の治具が必要
※硬質クロムや装飾クロムなど、処理の種類により条件調整が必要。
2. 化学剥離法(酸やアルカリによる溶解)
薬品により化学的にクロム層を溶解します。電解設備が不要な点は利点ですが、素地への影響が懸念されるため注意が必要です。
使用薬剤例
- 塩酸(HCl)
- 硝酸(HNO₃)
- 混酸(硝酸+フッ化水素など)
特徴
- 簡易な処理が可能
- 薬剤の選定を誤ると素地(金や銅、アルミなど)を腐食させるリスクあり
- 有害ガスの発生や中和処理などの安全対策が不可欠
3. 機械的剥離(研磨・サンドブラストなど)
クロム層を物理的に削り落とす方法です。再メッキ前の下地処理と合わせて行われることがあります。
使用機器例
- サンドブラスト機
- 研磨機(バフ、ペーパーなど)
特徴
- 剥離と同時に表面処理が可能
- 研磨熱や摩擦により素材が変質する可能性あり
- 精密部品や寸法精度が求められる部品には不向き
剥離作業時の注意点
クロムメッキの剥離は、見た目以上に高リスクな作業です。以下の点に注意して適切な工程管理が求められます。
素材(金属素地)を損なわないようにする
クロムの下にあるニッケルメッキや銅層、あるいは鉄・ステンレス・アルミなどの母材を傷めてしまうと、再メッキや再加工が困難になります。
→ 使用薬剤や電解条件は、必ず素地との相性を確認してから選定します。
環境・安全への配慮
クロム(特に六価クロム)は有害物質に分類されるため、剥離工程では以下のような配慮が必要です。
- 換気設備の整備
- 作業者の保護具(マスク、手袋、防護メガネなど)着用
- 廃液処理・中和処理の厳格な管理
寸法公差の管理
特に精密部品や医療部品では、メッキ厚(数μm単位)によって部品の精度が変わります。再メッキ時にも同じ寸法を確保するため、剥離工程での均一性と管理が重要です。
再メッキへの影響と仕上がりへの影響

クロムメッキの剥離は、単なる「除去」ではなく、次工程に直結する準備作業です。以下の点が再メッキの仕上がりに影響します
- 素地表面の粗さ・傷の有無
- 脱脂・洗浄の徹底
- 酸化被膜の除去(特にアルミニウム系素地)
- 下地処理(研磨や活性化)の有無
特に複数回メッキを繰り返すような部品では、素地疲労や寸法の変化にも注意が必要です。
まとめ:クロムメッキ剥離は「再加工」の第一歩

クロムメッキの剥離は、メッキ再処理や製品再生において極めて重要な工程です。方法選定を誤ると、部品の価値を大きく損ねる可能性があります。
- 電解剥離:精密部品や再メッキに最適
- 化学剥離:簡易だがリスク高
- 物理剥離:部分処理や下地処理向け
正しい知識と技術をもって工程を設計し、安全と品質を両立することが、今後の製造加工業に求められる姿勢と言えるでしょう。