カワサキKZ900

Kawasaki KZ900LTD
東京都江戸川区 Y氏

 

自分がKZ900LTDを購入し愛してやまない理由は話すと長くなります。ハイブリッドや電気自動車など化石燃料を使わない乗り物が増えていくのは時代の必然として仕方ないとしても、ガソリンエンジンにとりつかれてしまった趣味人にとってクルマやバイクには離れられない魅力があります。エンジンやサスペンションやタイヤなど、走るために必要なメカニズムが露出しているバイクにはクルマとはひと味異なる個性があり、むき出しのメカニズムはそれだけでライダーを引きつける要素になっていると思います。

ただ、ひと口にバイクと言っても速さを求めて最新モデルを追い続けるライダーもいれば、一台のマシンを長く愛用し続けるライダーもいて、何がバイクの魅力になっているかは人それぞれ。現在では「絶版車」と呼ばれるひと世代、ふた世代以上昔のバイクに対する人気が高まっていますが、それらに共通しているのは金属の重厚感がいかされてる点です。1960年代半ばになる頃には国内の中小メーカーが淘汰され、現在に続く4メーカー体制が確立されるとともにレース参戦によって技術を磨き性能向上にも拍車がかかりました。と同時に、黒一色だった車体色もカラフルになり始め、スチール製部品の表面処理にクロームメッキが多用されるようになっていきます。

私が所有している1976年型カワサキKZ900LTDは、ホンダCB750フォアに遅れること3年、1972年に発売されたカワサキ900スーパー4、通称Z1の後継派生モデルです。

4ストローク4気筒DOHCという他に類を見ない高度なメカニズムと性能の高さ、さらにスリム、スリーク、セクシーをコンセプトとしたデザインの良さで人気を獲得しました。初期型Z1はガソリンタンクとサイドカバー、テールカウルに1970年代初頭に流行したキャンディカラーを用いた深みのあるカラーリングを採用。一方で前後フェンダーやホイールリム、ヘッドライトステーや4本のマフラーなどデザイン上のキーポイントとなる部分にはクロームメッキを施したパーツを備えていました。多くの現行車の外装パーツは樹脂素材となっており、製造コストや軽量化といった合理性で判断すれば理に叶っているのでしょうが、メカニカルなイメージや重厚感、深い輝きという点ではクロームメッキにはかないません。1970年代当時でも実用車や小排気量の鉄フェンダーは塗装仕上げで、クロームメッキ仕上げには特別なステイタスが与えられていました。

とはいえ当時は、純正部品のクロームメッキ仕上げが取り立てて大切にされていたかと言えば、必ずしもそうとは言えない扱いを受けていたのも事実です。その時代のいじり好きにとっては前後フェンダーをレーシングタイプのFRP製フェンダーに交換し、メッキの4本マフラーを耐熱塗装仕上げの集合マフラーに交換するのが定番のカスタムだったからです。そして1980年代になりバイク業界全体が空前のブームを迎える頃には、ホンダCB750フォアもカワサキZ1/Z2もコアなバイク好きだけがこだわり続ける、単なる中古車となるか、手頃なカスタムの素材として消費される古いバイクとみなされる存在となっていきました。

ところがバイクブーム以降レーサーレプリカ、ネイキッド、ビッグスクーターなどいくつかのスマッシュヒットがあった後、1990年代なかばになるとCB750フォアやZ1/Z2などの1970年代モデルが絶版車としてクローズアップされるようになります。中でも特徴的だったのがカスタムの素材としてではなく、ノンレストア、未再生、オリジナルといった当時の純正スタイルに対する人気が圧倒的に高まったことで、その流れは現在でもしっかり定着しています。そして当時はいい加減な扱いをされていた純正パーツが、今になって珍重されプレミア付きで取引されるようになっているのだから皮肉なものです。

金属パーツのクロームメッキは、ニッケルとクロームをスチール素材の上に電気化学的に密着させており、塗装と違って表面は金属のクロムそのものです。鉄の上に二層の金属が重なっているのだから錆には強いと思われがちですが、絶版車のフェンダーやリムを見れば分かるとおり、クロームメッキで処理されたパーツにも錆は発生します。

ただ「クロームメッキが錆びる」という現象を理解するには顕微鏡レベルの観察が必要です。平滑で鏡面のように見えるクロームメッキ表面には、目には見えないほどの小さな穴が無数に存在します。この穴から水分が入り、ニッケルや素材のスチールに到達して乾燥、揮発することなく定着すると錆が発生して、クローム層の表面に現れます。初期段階では錆が点々と発生するのは、下地からクローム層の穴を突き抜けて錆が出てくるためです。絶版車のメッキパーツで錆が出てしまったら再メッキするのが理想ですが、錆の程度によってはケミカルで落とすこともできます。NAKARAIさんが開発したサビトリキングはこのような場面で頼りになるケミカルです。半井社長と話す機会がたまたまありその歴史とメッキパーツへの造詣の深さに感銘を受けました。以下お聞きした内容です。同社元々社内でクロームやユニクロなどを行っており、サビトリキングの開発でもメッキに対する経験や見識を活かしています。錆取りというと金属表面の錆を物理的に削り落とすイメージが強く、強く削ることで残っているクローム層に細かい磨き傷をつけてしまうことが懸念されます。

サビトリキングはコンパウンドのように錆を削るというより、錆に反応して浮き上がらせて溶かすように除去するイメージです。成分中には研磨剤が入っていますが、それはクロームメッキ表面のくすみを落とすためのもので、錆を擦って落とすわけではないようです。この点は取り扱い説明書にも明記してありますが、付属の専用クロスにサビトリキングをたっぷりつけて、錆を優しく撫でるうちに徐々に目立たなくなっていきます。クローム層が剥がれるほど錆がひどい場合、サビトリキングで錆を落としてもクローム層が存在しないため輝くことはありません。そのような場合こそ再メッキが必要です。

クロームメッキの錆=下地から出てくる錆を溶かすように除去するという点では、現行車用の樹脂メッキパーツの錆取りにも重宝します。金属パーツのメッキに比べて素材自体が軟らかく、硬い研磨剤を使うと磨き傷が残りやすいのが樹脂パーツのメッキの弱点ですが、専用クロスにサビトリキングをたっぷり付けて撫でる程度の強さで擦ると、ツブツブの錆が徐々に消滅してクロームめっき本来の光沢とツルツルの表面が復活します。

サビトリキングでクロームメッキの錆を取り除いても、メッキ表面には無数の小さな穴は残っています。NAKARAIのメッキングはその穴を埋める被膜を作るためのケミカルです。クロームメッキの表面保護に重要なのは、クロームメッキの金属光沢を阻害しないクリア感です。メッキングは特殊シリコーンを主成分とした透明の液体で、クロームメッキ表面に塗布しても被膜になっているのかどうか分かりづらいほどです。24時間で完全硬化すればメッキング被膜がクローム層の見えない無数の穴を塞いでくれるので、錆に対するバリアはかなり強固なものになると期待できます。

本来であれば、クロームメッキが新品のうちにメッキングを塗布しておくのが理想ですが絶版車で新品パーツを入手するのが難しいなら、サビトリキングで錆とくすみを取り除き、メッキングの強力な被膜でクロームメッキを保護するのが最善策だと思います。愛車のメッキパーツはこの2製品のおかげでメッキの輝きを維持できており、50年以上近くの車両とは思えないコンディションとなっており大満足です。